次の日、遺産相続の処理をした塩井が、さくらのホテルに、また訪れる。
塩井は、あくまで事務的に、いきなり本題に入り、さくらに、これからの見の振り方を提案した。

「これから、さくらには、2億6千万を稼いでもらう。並みの仕事では難しい事は解るね?」
塩井が、さくらに言った。
「...はい。」

さくらの嘘偽りの無い答えである。2億どころか、明日のホテル代ですら、さくら一人には稼げなかった。
それでもどんなことをさせられるのか、不安でいっぱいになる。
塩井は、一瞬で、不安そうになった、さくらに対し、借金の返済方法を冷徹に言い放つ。

「知り合いに、2億6千万で、さくらを買ってもらう手はずを整えた。ここに記載された場所に行きなさい。」
簡単な言葉だった。
「私を買う?」

さくらは、驚きと不安を抱えながら、塩井に確認する。
「そうだ、残念だけれども、売られることになった。」
そして、さくらを驚愕させる事実を話し出す。

「さくらは若いから、臓器も高く売れる。 心臓、肝臓の内臓系で、1億。 目や皮膚で1億。残りの残骸を標本として6千万。」
塩井は、さくらを目の前にして、家畜に値段を付けるように、説明した。

「こ、殺すの! せ、生活させてくれるって!!」
さくらは恐怖を堪えながら、塩井に訴える。塩井ならやりかねない、とさくらは悟っていた。
「最悪のケースと言う事だよ。」
塩井は、冗談とも、真実とも思えない返答をした。

「知り合いの、お店で働いてもらう。ただ、普通のお店では無い事は事実だけどね。」
塩井は、さくらを落ち着かせるように、静かに、そして声だけは、優しく語る。
「そこで、しっかり働き、認められれば、1ヶ月ほどで全て無かったことになる。」
「認められなければ、世間は、そんなに甘くないからね。物体の体で、返済してもらうから。」

「そんなの嫌...非道よ。」
さくらは、つぶやくように、言葉を吐いた。
そのさくらの言い分に、塩井は、ため息を付く。

「あぁ。本当ならね、直ぐに、解体してしまうんだけどね、さくらの作った借金じゃ無いし、父親の肩代わりと思って、チャンスを与えたつもりなんだけど..」
それは、塩井としても精一杯の妥協であった。

2.6億ともなれば、利子だけで、月に100万以上だった。
”もう少し、さくらが、不細工か、性格が悪ければ...直ぐに解体できたのに..”
塩井もまた裏の世界で生きているとは言え、人間であった。

「....」
さくらは、そう言われると、塩井の指示に従うしかなかった。



そして、会員制Clubエメラルドで、さくらは働くことになった。

今日から、Clubエメラルドでホステスとして、働くことになった、さくらさんだ!」

宏美さん。ルールと指導を宜しく。
指導料として1GOLDを出そう。

面倒くさそうに、していた宏美は、1GOLDと聞き、目を輝かせる。
「解りました。しっかり教育します。」
その返答を聞いて、支配人は、笑みをこぼした。

「こっちに来て。」宏美は、さくらを控え室に案内する。
開店前の控え室には、宏美を含め、さくらでも驚くような美貌の女性達が、20名ほどいた。
まるで、王室のハーレムのようだった。

その片隅で、宏美が、さくらに説明を始めた。

「どんな経緯でこの店に来たかは知らないけど、この店の事を説明するわね。」
宏美は、さくらを見つめながら熱心に話し始める。
「理解してもらえなかったら、私が支配人に怒られちゃうから。」

”綺麗な人...”
さくらは、不安を抱えながらも、同性の宏美に見とれてしまう。
そんな女性達ばかりだった。

「基本は、ご来店したお客様をもてなして、チップを頂くことがお仕事よ...」
「ただ簡単には、チップは頂戴できない..」
宏美は、一瞬顔を曇らせる。
「お客様がお喜びになれば、何をしても、いいの。」

「チップは、1枚、1GOLD 100万円 自分の必要な金額を集められれば、退店できる。」
「ただ、1日3GOLDを、お店にバックする必要があるの。」

宏美は、ここで会話を止める。言いたくない、宏美自身忘れたいことを必死に口にした。
「マイナス30G になると殺されるわ。」

”こ、殺されるって..”
さくらは、宏美の顔を見つめ、可憐な顔を曇らせた。
「なるべくそうならない様に、支配人もしてくれて、あまり無いことだけど...無くはないわ。」

宏美は、悪夢を振り払うように、最後にさくらに話した。
「それ以上にあなたも、ショックを受けるわ。 細かいことは、実際に体験して。初日は、お店へのバックが無いから、私に付いて把握してね。」
寂しそうに、宏美は、言った。
さくらは、現実と思えない事に、呆然としていた。ただ、
”とりあえず、お客様にチップをいただけばいいのね”


と漠然と思っていた。

それから、しばらくの間、さくらは、宏美と会話することが無かった。
宏美や、他の女性達が、ただでさえ、美しい容姿にさらに磨きをかけるように、身だしなみを整えていく。
「今日も宜しく!」 支配人の声が掛かると同時に、女性達が、一斉に、ホールに向かっていた。

そのホールには、所々に、高級そうな革張りのソファーが女性の人数分、置かれており、女性達は座っていく。
宏美も、あるソファーを選び、座った。
「今日は、何もしなくて良いから、後ろで立っていてね。」

宏美は、明らかに緊張していた。
質問や拒否を許さない威圧に、さくらは、慌ててソファーの後ろに立った。
”何が起こるんだろう..”
さくらも緊張していた。

そして、そのホールに、客が現れる。数名の中年の男性だった。
男達は、物色するように、ホールを周り、女達をいやらしそうに眺めていた。
”き、気色悪い..”
さくらは、その男達を見て思った。

が、実際に、見られている子達は、中年男性に、微笑みを絶やすことは無かった。
その中年男性が、宏美の前に来る。
宏美も満面の笑みをたたえながら、男に、隣に座るように薦めた。

ただ、その男性は、座ることなく、通りすぎた。
さくらは、一瞬、宏美の様子を伺うと、宏美は、明らかに残念そうだった。
”大変そう..”

まだ、自分の事とは思えないさくらは、なんとなく思っていた。
男は、少し離れた女性のソファーに座った。
なにやら、話をすると、2人で、別室に消えていく。

”何をするのかしら...”
世間を知らない、さくらには、見当も付かなかった。

そんな時、宏美の前で、初老の男性が足を止める。
「お掛けになりませんか?」
宏美が誘う。
その誘いに、男性は、ものめずらしそうに、立ち尽くす、さくらに視線を向ける。

「その子は?」
その質問に、宏美が答える。
「初日で見学の子です。お邪魔でしたら退かしますが?」

「ほお。」
楽しそうに、男性は笑い、宏美の席に座った。
そして、小声で、なにやら、宏美と話していた。 さくらは、それと無く聞き耳を立てるが、
詳細は解らない。

「...で......なら、10 GOLDでどうだい?」
最後だけどうにか聞こえた。
「....」
宏美は、一旦、躊躇したが、「かしこまりました。」と、初老の男性に返答すると、立ち上がる。
「さくらさんも見学に。」
宏美は、若干、はにかんだ表情で、さくらを呼ぶ。

「は、はい。」さくらは、答え、2人の後についていく。
個室には、豪勢な応接セットが置かれ、高級酒の準備がされていた。
中心に男性は、腰を下ろす。
宏美は、ソファーにも座らず、毛の長い絨毯の上に直接正座した。

”どうしたら...”
さくらは、自分がどうしたら良いか躊躇する。
そんな、さくらに、初老の男性が声を掛けた。

「君は、そこに立っていなさい。」その指示にさくらは従う。
宏美は、高級洋酒のボトルを開け、水割りを作っていく。そして、初老の男性に手渡した。

”テレビとかで見たことある..ホステスの仕事。”
さくらは、良い気分では無かったが、借金を背負った以上、明日から、宏美にも、負けないように
がんばろうと思った。

...この時までは。
初老の男性の横に座った宏美に、初老の男性の腕が伸びる。
”な、何してるの!!”

さくらは、驚愕した。
男性の腕は、遠慮もせず、伸び、宏美を抱える。そこまでは何とか理解できたが、
男性の手が、清楚なドレスを皺にしながら、宏美の胸をわしづかみしていた。

”宏美さん!! 変な客に捕まった。”
胸をわしづかみにされている宏美は、まだ顔に笑みをたたえている。
さくらは、気の毒に思った。

しばらくして、初老の男性の手が宏美から離れた。
”良かった..”さくらは、その様子を見て安心する。

ただ、宏美の言葉に唖然とする。
「お気に召しませんでしたか? 私の体。」

”え!何て言ったの?”さくらは、目を見張る。
初老の男は、宏美に侮辱の言葉を吐いた。
「思ったより小さいし、柔らかさが足りない! さっきの10Gは無しな。別の子にする。」

そう言って立ち上がろうとした。
宏美は、慌てた様子で、男を引きとめに入った。
「お、お待ちください、もう少しお情けを...」

その言葉に、男は、座りなおす。
「ありがとうございます。」 宏美は、平身低頭した。

”も、もしかしたら...”
さくらは、宏美の態度で、明日から自分の身に降りかかる事に愕然とし始めた。