セントU大学、都内でも有名な女子大学だ。
有名とは、偏差値はもちろんのこと、それ以上に、施設が充実しているため、
学費が高いことが有名で、上流階級の子女がほとんどの、お嬢様大学である。

この大学の薬学部4年、在籍番号1に、滝川玲奈は、在籍していた。

今年で21歳になる。

周りの学生と違い、両親は地方公務員だった。
学費で親に迷惑を掛けているとは知っていたが、セントU大学の就職先には大手企業の研究職が多く、
将来の夢である薬の開発を行うために、無理をお願いしていた。
そのせいもあり、日々の努力を怠らなかった結果の、

成績順に付けられた在籍番号に、玲奈は誇りをもっていた。

大学4年にもなると学内では、そろそろ就職活動の話題があがってくるころである。

「私は簡単に決まったけど、玲奈は、就職するの?」

親友の香織が玲奈に声をかけた。香織は、成績は今一だったが、先日、大手企業の受付の内定をもらい、
卒業まで、気晴らしに、女性誌の読者モデルをするつもりらしい。
明るい笑顔と、気さくで奔放なところに玲奈も好感をうけていた。

「もちろん。薬の研究をして多くの人の役にたちたいから。」
と答えると、
「玲奈は、相変わらずまじめね。それなら、どこにでも採用されるわ。頭も良いし、綺麗だし」
「・・・綺麗だなんて、モデルの香織に言われても嬉しくないよ。」
「そこが玲奈がまじめってこと。そこがいいところでもあるんだけど。」

香織の言うことが正しかった。香織も読者モデルというだけのことはあり、綺麗なのだが、玲奈は、それ以上だった。
学内で、香織はいつも話題の中心でいられたが、玲奈と一緒だと周りの男の視線は、常に
玲奈に向かっていた。
すらりとした体に凛とした顔立ち、近寄りがたいフインキが、男を寄せ付けないのかもしれない。
そのせいで、本人は、気づいていないのか。
というより、気にかけてもいないのだろう。

「まじめで結構よ。今はそんなことは如何でもいいから。就職活動に専念しないと。」

玲奈は、本気にそう思っていた。なぜなら、世間では、就職難が叫ばれているにもかかわらず、
周りの友達は、香織を含め、次々に内定をもらっていた。にもかかわらず、玲奈には、
会社説明会の案内すら着たことがなかったからだ。

「なにかやり方が間違っているのかしら。せめて面接までたどり着いてくれればいいのに。」
香織は、玲奈の悩みを聞きながら、あるアドバイスをした。

「学校の就職課に相談してみたら? ほとんど就職課は利用しない人が多いって聞いてるけど、
相談に乗ってもらえるかもよ。」


以前、就職課の評判が良くないということを玲奈は聞いたことがあったが、香織の薦めもあり、
「そうね。一度相談しにいってみる。」と返答した。

翌朝、玲奈は、リクルートスーツに身を固め、就職課に出向いた。
想像していた就職課とは違い、応接室のような部屋に通された。
「珍しいですね」


中年の男が玲奈の前に立ち、話を続けた。
「始めまして。狩場と申します。うちの学校の生徒は、ほとんど、就職課を利用しないんですよ。
まず企業側からの名指しでほとんどの生徒が就職が決定しますから。」
 

玲奈は、あまりにも現実と相違していることに驚いた。
「私、就職活動を始めて、各社に応募しているのですが、面接どころか、説明会にも呼ばれないんです。
どのようにしたら、良いのか相談を。」
悲痛の面持ちで、狩場に助けを求めた。

狩場は、心の中で、つぶやいた。
「この悲痛な表情も美しい..待った甲斐があったというものだ...」

実際U大学の生徒は、能力だけでなく、親の階級に恵まれた子女がほとんどだった。
企業からの人気も絶大で、青田狩りが横行したため、通常の大学と違い、
生徒と企業が直接就職活動を実施することを裏では、禁じていた。
企業も次年度以降の入社人員に影響を及ぼすのを恐れ、大学の言いなりであった。

通常は、香織のように、大学があらかじめ選抜した企業が、生徒にアポイントを取り、内定を出す
段取りになっているのだが、
玲奈は、狩場に目を付けられてしまっていた。
当然、玲奈にも多くの採用案内が来ていたが、狩場がすでに内定済みとの通知をしてしまっていた。

「滝川玲奈さんですね。企業からの指名が着ませんか。うーん 成績は非常に優秀ですね。」
狩場は、玲奈のプロファイルをみながら、話出した。
玲奈もすかさず、
「希望は、薬品の研究者です。面接の機会をいただけたら、将来のビジョンを明確にご説明させていただきます。」
とアピールした。

次の瞬間、狩場は、真実を隠し、冷ややかに玲奈に言い放った。
「ああ、両親、地方公務員か。これじゃ無理だね。」
玲奈は、絶句した。もちろん裕福ではないが、普通の生活を送っている。
「成績はがんばりましたし、両親は関係ないのではないですか?」とたずねた。
しかし、
「現実はだめでしょ?特に女がてらに研究者を望み、支援者がいないんじゃ、ねえ。
世の中には、残念ながら、階級があるんだよ。その壁を乗り越えるには、上の階級の人間に
押し上げてもらう必要があるから。」
つつけざまに狩場は、言った。
「まあ2,3年就職浪人でもすれば、いつか入れるかもしれないし?」

玲奈は、狩場の罠に気づかなかった。現実に企業からのオファーも無く、この数ヶ月の就職活動で、
うすうす親の力を思い知らされていた。
就職浪人ができる立場でもなかったため、動揺し、狩場の言葉を信じ始めていた。
「就職浪人はできません。一般人には、夢は、いや研究者になることは、無理なのですか?」
狩場は、困った顔を作りつつ、
「就職課としては、企業からのオファーが無い限り諦めてもらうしか...私の個人的な繋がりで、
紹介することは、できるけど...いや..」言葉を濁した。

「何ですか? お願いします。ぜひ紹介してください」玲奈が答えると狩場は、表情を一変させ、一言
「3回廻って ワン!」と言った。
玲奈は、怪訝な顔をし、「何ですか?」と答えた。
狩場の返答は、冷たかった。
「上の階級の指示には、素直に従えないのか。自分の立場を解ってるよな。」
玲奈は、ありえない指示に戸惑いながら、しかし、自分の立場は、解っていた。狩場を怒らせないように
反論した。
「・・でも、おかしいと思います。犬ではありません。ひどい。」

「まだ解らないのか!社会はおかしいものなんだよ。上流階級は、物、金は、全て持っているものだ。
結果、人を支配することを望む。私の要望に答えるか答えないかそれだけだ。
君が失うものは無い。たかが、廻って叫べるか否か。それで君の希望がかなえられる。」
「・・・」
玲奈は、認めたくは無いが、上流階級の周りの友達と自身の違いを考えた。今までは、その差は、
努力で埋まると思っていた。が、実際の状況は違っていた。玲奈はあせっていた。
”やりたくは無いが、大した事ではないと思えばいい。”
そう考え始めた。
「解りました。その代わり、必ず紹介してください..」

狩場は、自分の思惑通りになりつつあることに細く笑んだ。
その後、目で催促した。
玲奈は、その細身の体をゆっくりと起こし狩場の前に立った。
覚悟を決め、ゆっくりと廻り始めた。

「・・わん」

たかが廻って話すだけだが、屈辱で体が震えた。狩場に目を合わせないように元の席に戻ろう
とした時、狩場が、前をを遮り、
「お手!」の声が掛かった。玲奈は、一旦躊躇し、狩場を見る。

狩場は言った。
「社会の流れだ。長いものに巻かれろというだろう。意地を通して、一人で生きていけるのかね。」
「ほら、お手!」
玲奈は、うつむきながら、その手を差し出した。
狩場は、その小刻みに震えた手を取り、満足そうに言った。
「やればできるじゃないか。私に任しておけば、3日後には、K薬品の研究職に内定する。」

玲奈は、つぶやいた。
「K薬品..」本来は小躍りして喜びたいことである。こんな卑怯な手で内定を貰って良いのか。
そこだけが、気になった。

K薬品は、世界的に有名な薬品会社である。U大学でもなかなか就職ができる企業ではない。
実は、既にK薬品からは、玲奈の成績や、論文が評価され、オファーが着ていた。
そのオファーを、狩場が、”時間が欲しいと本人が言っている”と止めていた。
そんなことはおくびにも出さず、こう言った。
「もちろん。私の余興に付き合えばいい。」

玲奈は、”悪いことかもしれないけど、この人のくだらない命令に従えば..”
と自分に割り切るように言い聞かせた。

「ほらもう一度、お手」狩場の指示に、 玲奈は、今度は躊躇することなく手を差し出す。
「次は蛙だ!その場で跳ねて蛙のまねだ!」
玲奈は、自分を情けないと思いつつも、「ケロ。ケロ。」とその場で蛙のまねをして見せた。

この様子をはたから見れば、明らかにおかしい2人だった。

さえない中年の親父の前で、聡明で綺麗な女性がその顔を屈辱に歪めながら蛙のまねをしている。
その異様な光景が、次は猿だ、馬だ、と数回続いた。
玲奈は、まじめな性格からか、恥ずかしながらも、一生懸命指示にしたがっていたが、
狩場の一言で、その場にうずくまった。
 

「下着は、白か。」
玲奈はリクルートスーツでおかしい格好をしていたため、裾が膝上まで上がっていたのだった。
「嫌。」うずくまりながら、タイトスカートを戻そうとしたが、狩場が静止した。
「下着ぐらいご愛嬌で見せてても良いだろう?。」
狩場は、にやりと笑いながら言った。