長期戦となった逆流性食道炎との格闘もようやく一息つき、また普段と変わらない生活を送っていた、去年7月頃の話。
その時は極端に忙しいでもなく、強いストレスを溜め込むような出来事も特になく…要因の見当がつかない状態でその「異変」は起きた。

ある日の帰宅後にPCを立ち上げてネットサーフィンをしていた時突然、マウスを操作する右手に妙な違和感を覚えた。
その時の感覚を表現するのに最適な言葉はちょっと思いつかない(何とも言いようのない…ってのが一番しっくりくる)んだけど、あえて強引に表現するとすれば、それは「大笑いした後とかに、笑い過ぎて手足に力が入らなくなる感覚(脱力感)」に一番近かった。

もちろんその時は大笑いなどの感情変化があった訳じゃないんだけど、何故か掌全体に力が入れにくい感じがした。
それでも操作出来ないほどじゃなく、単に「エッジの利いた動きが出来ない」くらいの軽いものだったが、何か妙な感じがするなぁと思いながらもその時は特に意識する事もなく、その日は夜も更けてそのまま寝てしまった。

だが翌日の朝に目が覚め、携帯にセットした何重かの目覚ましを解除しようと携帯のボタンを押そうとしたら…
あろう事か、片手で携帯のナンバーボタンを押す事が出来なかった。

押そうとすると手の指が小刻みに震え、うまく力が入らない。
しかも片手で持つ携帯電話そのものが掌で固定出来ない…腕から力が抜けていくような感じで、何と携帯を両手で持たないと、ピタッと静止させて持つと言う事が出来なかった。

何だこりゃ、一体どうなってんだ…と思い、近くにある物を持ち上げてみたり、自分の握力を確かめるような動作を繰り返してみたんだが、何と言うか「握力そのものが無くなっている」という感覚はなくて、実際に持とうと思えばそれなりに重いものでも通常通り持てる状態だった。
だが持つ対象の重さに関係なく、物を持ってからがしっくり来ない。
笑いすぎた時の脱力感と、何か腕がムズムズするような気持ちの悪い感覚とでも言うべきか…少なくとも間違いなく、普段の自分の腕とは感覚が違うと言う事だけは分かった。

それに…腕の脱力感のようなものとあわせて、全身の筋肉に軽い痙攣のような症状が出始めていた。
ただ痙攣と言っても重い症状ではなく、よく目に疲れが溜まった時とか睡眠不足の時などに「瞼がピクピクする」という状態になった事がある人は多いと思うんだけど、あの状態(攣縮と言うらしい)が瞼だけでなく、全身の筋肉の至る所で起きるようになった。
太腿に始まって脇腹から指先、挙句の果てには唇までが(数秒を1セットとして)頻繁にピクピクと痙攣するようになった。

別に直近で筋肉痛になるほど激しい運動をした訳でもないし(むしろ運動不足過ぎて不健康を地で行っている自覚があったほどだし)、重い物を運んだとかで筋肉に負担を掛けたという訳でもなく…自身のその症状にはただただ、困惑するしか無かった。

そしてとりあえずその日は通常通り出社したんだけど、今度は電車のシートやオフィスの椅子に座った時にまた違和感を感じた。

…足の先が、気持ち悪い。

両腕と全く同じような感覚が、両足にも来ていた。
足を地に着けているのに勝手に小刻みに震えてしまうような感覚と脱力感、そしてムズムズするような表現しようのない気持ち悪さ。
おかげでその日は一日中、仕事にも集中出来なかった。

しかもその「妙な脱力感的なもの」は突発的な症状にとどまらず、それが何日も続いた。
仕事中にノートにメモを書こうとしても、脱力感でペンがしっかり握れず、ミミズが這ったような字しか書けない。
仕事が終わって軽く一杯と思ってビールを飲もうとしたら、ジョッキを持つ手が震えて片手だと持てない。
たまに足が地につかないほど高い椅子に座ったりすると、足をブラブラさせるのが強烈に気持ち悪く感じてすぐに立ち上がりたくなる。

しかもネットで自分の症状をキーワードに検索を掛けてみても、ドンピシャの症状を持つ病気ってのが出てこない。
「似たような症例」とか「類似する病気」とかで調べてみると、それこそ今までに聞いた事さえないような…現代の科学を持ってしても不治の病とされる重篤な神経病がゴロゴロとヒットして、自分の本当の症状は何一つ分からないのに不安感だけを散々煽らされるばかりだった。

そしてその調べた「似たような症例」の中でも特に、筋萎縮性側索硬化症という病気の持つインパクトは大きかった。

原因不明、治療法なし。
10万人に1人程度の確率と言われるも、それは遺伝的なものではなくて誰でも罹患する可能性がある…。

この病気で一番気掛かりだったのは、その確率の低さ以外に自分が「この病気な訳がない」と確信の持てるポイントが無かった事だった。
一般的な症状の出方とかが微妙に違っているとは言え、調べれば調べるほど色んな発症のパターンがあるとも知らされた。
事故死より遥かに低い確率とは言っても、もしや気が付きゃ「手足が自由に動いていた頃は幸せだった」なんて話になるのか…?

なんかもう、こんなモヤモヤした気分を引っ張るのはコリゴリだ…。
そう思ったある日(症状が出て一週間くらい経過した日)の平日に一日休みをもらう事にして、近くの神経外科クリニックで検査を受ける事にした。


次回に続きます。


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