土曜日、オフが始まる前に今住んでいる部屋の管理会社に立ち寄って、アパートの更新手続きを行ってきた。
そこで偶然、「(自分の)隣の部屋の人が最近、引っ越しちゃってね…」って話を耳にした。

確かに最近隣が異常に静かで、いつ見ても電気がついていないし…ポストの名前も剥がされていたんで、もしやとは思ってたんだけど。
そして、自分はこの話を聞いた時…ついに俺は「この隣人」から完全に解放されたんだと、心の底からホッとしたものだった。


東京に引越しをしてきて以来、ずっと「一番最初に決めたアパート」に住んでいる(今まで一度も引越しをしてない)んだけど、
特に引っ越してきた当時は、木造アパートにも関わらず生活音も全然漏れてこないしアパート周辺も住宅街で超静かで、
こりゃ結構上手い具合に当たりの物件を引いたもんだなぁ、などと呑気な事を思っていたものだった。
そう、このつい最近引越しをした奴が隣に住み出すまでは。

確か自分が東京に来て二年目の夏くらいからだろうか、なんか深夜に隣の部屋から数人の男女の騒ぎ声がするようになったのは。
それも曜日を問わず…その上、時間さえも問わず。深夜の2時3時だろうが、お構いなしにバカ騒ぎの声が響く。
そして、その騒ぎ声と一緒に聞こえてくるのは…重低音がズンズン響きまくりの耳障りな、いかにもアタマの悪そうな音楽。

最初のうちは「まぁこんな日もたまにはあるだろう」程度の認識でとりあえず我慢していたんだが、次第に「たまには」と言えるような
頻度でもなくなってきてしまい、ほぼ毎日のようにバカ騒ぎの奇声が響いてくるようになった。
そして周囲に住んでいる人間が何も言わないのをいい事に、その騒音レベルは日に日に高くなっていった。
しまいにはアンプ付きでギターまで鳴らし始める始末。それも平日の朝の4時とかそんな時間帯に、である。

しかも今となっては笑える話なんだけど、この騒音野郎はいつも決まって同じ曲ばかりを流す。
ギターを弾くのも常に同じフレーズばかり。俺は未だに、この隣人が毎日のように鳴らしていた音楽のメロディーを覚えてしまっている。

深夜2時頃に一旦騒ぎが収まったかと思ってようやくウトウトし始めていたら、3時や4時になってギターの音が「ギャーン」と
突然鳴り出す。一発で目が覚め、精神的なイライラも重なってもう二度と眠れない。しかもいつもと同じ曲。まさに地獄である。

騒音に苦しめられた事がない人にはピンと来ないかも知れないが…ってか自分にしても最初はそうだった。
自分の知り合いの人が「上に住んでる中○人の騒ぎ声がうるさくて頭がおかしくなりそう、もう地獄だ」って話をしていても…
話を聞いた当時はまだ平和そのものだった自分は、「ふーん、大変ですねぇ」程度の認識しか持つ事が出来なかった。

だけど実際に自分がその被害者となった時、その知り合いの人の苦しみが痛いほどよく分かった。
一番の苦痛は、その騒音のおかげで単に眠れないとか、夜中に起こされるとかそういう「単純な苦しみ」ではなくて…
自分の部屋にいながらリラックス出来ない・常にイライラした状態が続くという事が、何よりも…とてつもなく苦しかった。

文面ではうまく伝えられないかも知れないけど、精神を休ませる事ができずに四六時中ピリピリした状態を続けるのって、
本当に異常なくらい体力を消耗するし、そういう騒音も一度気になり出すと止まらず、その騒音ばかりに神経が行ってしまい…
騒音を聞かされるという事が自分のプライベートの中心になってしまう。まさにストレスのみを溜めるような生活になる。

騒音のストレスを溜め込んでいたある日の深夜、隣のバカは今度はその音楽のボーカルが丸聞こえの状態まで音量を上げてきた。
住んでいるアパートは、前述の通り木造の割には生活音などもほとんど漏れず、壁なんかも相当厚く出来ていたんだけど…
そんな壁さえ突き抜けるような爆音を深夜に鳴らしてきた時、とうとう堪忍袋の緒が切れた自分は、無意識のうちにフラッと外へ出て、
気が付いたらその騒音野郎の部屋の玄関ドアに蹴りを5・6発入れてしまっていた。

一瞬にして、水を打ったように静まり返る隣の部屋。
(このアパートはエントランスがアーチ状になっているので、実際の力以上に凄まじく音が反響する)

まぁ今にして思えばアパートのドアを(いくら鉄製の頑丈なドアとは言え)少なからず傷つけてしまっている訳で、
この行為自体は当然非難されてしかるべきだし、言い訳とか弁解をするつもりはないんだけど、なんでこんな一方的に
精神的にも肉体的にも苦しめられなきゃいけねーんだ…と思うと、どうしても自分に歯止めを掛ける事が出来なかった。

ただこのドア蹴りの後も…数日は深夜の音楽も止んで静かな状態になるんだけど、二週間くらい経過するにつれ
またジワジワと音量を上げてくる。そしてしまいには前と同じに近いレベルにまで騒音を出してくる。もう完全にナメられている。
さすがにその後はドアを蹴り上げたりする行為は何とか我慢し、大家さんに苦情を出すという方向に変えて行ったんだが、
これまた大家さんが注意して一ヶ月も経過するとまたうるさくなってくる。そこでまた苦情…の繰り返し。

この間ずっと、精神的に休まる日がなかった。
隣が少しでも…「ガタッ」とか音を立てるだけで、「またいつものワンパなライブショーが始まるのか…」と思えてしまい、
そういう事を考えただけで不愉快な気分になる。今がどんなにリラックスした状態でも、物音一つだけで不快な気分になってしまう。

それでもその騒音の度に苦情を言い続けてきた効果がようやく出始めて、最終的には隣はほとんど騒音を出さないレベルにはなった。
色々な騒音問題を扱うサイトなんかを見ていると、大家によっては騒音に対して何もしてくれなかったり、住んでる人間で解決してよ、
みたいに軽くあしらわれたりするケースもあるみたいだが、幸いにも自分のアパートの大家さんはそういうトラブルにも毅然と対処してくれ、
「何かあったらいつでも言って来て下さい」と言ってくれる人だったのが不幸中の幸いだったかも知れない。

そんな地獄からようやく解放されて、今は静かで快適な夜を過ごしている。
願わくば次に入居する隣人が、せめて人並みにまともな感覚を持った人間でありますように。


…ちょっと後味の悪い話になってしまったかも。まぁ明日からはまた笑い話中心で進めるんで。笑


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