小説 「秘密」 一部抜粋

 

 

フランソワーズは仕事の顔になり、てきぱきと原に指示を出す。原は言われた通り書類をフランソワーズの元に運ぶ。机の上に作業の準備をしていたフランソワーズが、ふと原を振り返る。

「ああ、忘れてた。やっぱりお仕置きは必要だろう」

「え?」

ぴた、と立ち止まる原の腰を長身のフランソワーズが引き寄せる。頭半分ほど高いフランソワーズの唇が、驚いて顔を上げた原の唇に重なった。わずかに開いていた唇に舌が滑り込む。原は驚いて、フランソワーズを突き放そうとしたが、普段から自分で機材を運ぶ作業までしているフランソワーズの力は意外に強く、しっかりと抱き寄せられた身体を離すことができない。空いていた片手は原の後頭部を引き寄せ、逃げられないように固定する。

「んー、・・・」

口をふさがれた原はくぐもった講義の声をあげるが、フランソワーズは一向意に介さない。柔らかな舌は原の縮こまった舌を絡めとり、軽く吸いながら舌先で口蓋を撫でる。舌を吸われ、原は相手がフランソワーズだというのに、表皮に粟が立つようなぞくぞくとした快感を覚える。フランソワーズの指は原のうなじをゆっくりと撫で上げ、髪を絡め取っては弄ぶように軽く引く。舌は生き物のように滑らかに、原の舌や歯列をなぞっては離れ、単調な動きを繰り返したりはしない。腰を抱いた手は厚い上着の下の背骨を探り当て、上から下へと軽く力を入れた指がなぞって下りる。原は次第に抵抗することも忘れ、フランソワーズのされるがままに身を任せた。

髪を弄んでいた手は原の頬を包む。滑らかな針のある肌をフランソワーズの手は愛しそうに愛撫する。指が重ねられたままの唇の端に触れたとき、原は自分の奥で何か熱いものがとろけだしたのを感じた。指は唇から顎を伝って首筋をたどる。僅かに開いた襟から除く鎖骨に軽く爪をかけて触れ、そして肌から離れフランソワーズの手は原の肩を抱いた。