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「その前に、私たちが抜くけどね」
特ダネとは何か?
特ダネを補語にする動詞は何か?
この本を書くに当たって、まずこれについて悩みました。

特ダネ(特種)をYAHOO!辞書で調べてみましょう。大辞林では、「新聞・雑誌などで、ある社だけが手に入れた重要な記事の材料。スクープ。」、大辞泉では「新聞記事などで、その社だけが特に入手した情報。スクープ」とあります。つまり、特ダネとは、絶対的な話題性で言うのではなく、競合他紙と比較して、載っかっていない記事のことを言う相対的なものなのですね。ある事件が読売新聞に載っていて朝日新聞や毎日新聞に載っかっていなかったりした場合は、「読売の特ダネ」と言うわけです。ちなみに特ダネの反対語は、特落ちと言うそうです。
そして、その場合、特ダネを補語にする動詞は「抜く」になります。実際、記者の会話には、「あそこが抜いた」「あそこに抜かれた」という言葉がよく出てきます。
新聞業界の特ダネ競争は、色々議論の対象になります。過剰報道になるといった批判もある一方で、新聞業界を活性化させたと主張する業界の方もいます。

さて、リリアンかわら版。言うまでもなく、「競合他紙」が存在しません。つまり正規の意味での「特ダネ」は存在しないのです。
そんな状況下で無理に競争相手を作るため、私は写真部を相手にして、新聞部と競争関係にある……という設定にしようと思ったのですが、よく考えると写真部は別に報道写真ばかり撮っている訳でなく、競争相手にするには無理があります。なので、この設定はやめました。最も、46ページあたりの記述は、設定の名残が現れています。
じゃあ特ダネという言葉は使えないかなぁ、と思ったのですが、特ダネは一般的に、「知られていない話題性の大きなニュース」という解釈をされています。一般的な解釈に甘えて、特ダネを抜く、という言葉を使うことにしました。

ただ、書き終わったあたりで、リリアンかわら版には強力な競合相手がいるのではないか、と思うようになりました。それは、「一般生徒の噂」です。生徒数600人ほど(推定)の狭い社会、噂が広まる速度も速いようです。原作では何かというとすぐに噂が広まって困る祐巳ちゃんの姿が何度も出てきてます。
そういう中で、リリアンかわら版が多くの生徒を驚かせるニュースを載せる。これは、噂を出し抜いた特ダネだ、と考えるようになりました。校正する際にこの辺を考慮し、「噂が立つ前に特ダネを抜く」という考え方、姿勢をキャラクタ(特に編集長)に持たせたわけです。

特ダネは新聞の華。三奈子や真美にはがんばってもらいたいものです。