PJ-80 局発の温度特性・電源電圧依存性

中国製3.5MHz受信機であるPJ-80は、安価かつ軽量・小型で、世界大会でも通用する(三村氏談)というすぐれものです。しかも中身にもスペース的な余裕もあり、改造大好き派にとっては、大変興味深いリグです。

あきたなさんのHPにも刺激を受け、私もそのうち改造したいと考えていますが、まずはPJ-80を知ろうと思い、いくつかの測定を行いました。

きちんとしたドキュメントは作成中ですが、とりあえず速報版です。

 

3−1 回路全体

               図1 全回路図

 

 高周波増幅1段(BG1)、検波&低周波増幅(BG2)、局部発信器(BG3)、低周波増幅(LM386)のダイレクトコンバージョン方式の受信機です。私のリグではR14は680[Ω]、D3の電圧は約3.9[V]でした。従って、バリキャップD2にかかる電圧は、0.25〜3.9[V]です。

一方、巷で有名ですが、局発の周波数は、3.5[MHz]の半分の1.75[MHz]です。周波数調整ボリウムW2(10[kΩ]A型)であり、W2のの可変により、局発周波数の振れ幅は0.073[MHz]なので、周波数振れ幅とバリキャップ電圧との関係は、0.073/(3.9−0.25)=0.02[MHz/V]=20[kHz/V]となります。

 

 

 

3−1 電源電圧依存性

 PJ−80の周波数安定性は、余り良いと言うわけではありません。スタートしてから何回も周波数つまみをいじることになります。周波数変動の要因は電源電圧変動と、温度変動が主要因であることが容易に推測できます。電源電圧変動に関しては「あきたな」さんのHPでも触れられており、3端子レギュレータによる安定化にトライされ、良好な結果を得たとの報告がなされています。また、3端子レギュレータを使用する場合に、ノイズに注意しなければならないということで、小倉さんの追試によると、RFとレギュレータを離したり、レギュレータのメーカによってノイズの出方が違うことが報告されています。

ここでは、ノーマルなPJ−80の局発周波数の電源電圧依存性を測定します。

温度変動による誤差を小さくするために、ケースを開けてファンで強制空冷するやり方をとりました。

  

 図2 実験装置全景

               図3 実験装置拡大図

 

図2が全景です。ダンボールの箱にリグを入れ、12Vのファンで強制空冷します。上に少し見えているのは周波数カウンタ、箱の下に見えるのは、30年間愛用しているテスタです。

図3が拡大図です。周波数カウンタのプローブにセロテープで貼り付けているのは温度センサ(秋月で購入)のプローブです。

温特測定の時は、ドライヤで暖めたり、保冷材を入れたりして、箱上部をふたした状態で放置し、温度がゆっくりと変化するとともに測定を続けていくやり方をとりました。

電源は電池を使わず、可変電圧電源から供給しました。(写真では電池が写っていますが、電源とは違う目的で使用しました。使用したアナログテスタで6V付近の電圧を測定しようとすると、50Vレンジを使わざるを得ず、測定精度がとれなかったので、あらかじめ電圧を測定してある電池を直列に入れてその差分電圧を測定するというアマチュアならではの裏技です)

 

まず、ビックリしたことは、定電圧電源+強制温度コントロールで、周波数変動がないことです。電源ON後、10分、30分たっても周波数変動がありません。想定していたことではあるものの、少し驚きました。

     図4 局発周波数 v.s. 電源電圧

 

     図5 ツェナ(D3)電圧 v.s. 電源電圧

 

PJ-80の電源の定格は1.5V X 4=6V です。この電源電圧が変化した時のツェナ電圧および局発の周波数変化測定です。周波数つまみは中央(クリック感がある)に設定しました。

電源電圧が1V下がると、ツェナ電圧は0.288V下がり、局発周波数は419Hz(受信周波数では838Hz)下がります。

すなわち、局発周波数と電源電圧との関係は、419[Hz/V]であり、ツェナ電圧と電源電圧との関係は、0.288[V/V]です。

 

 バリキャップの電圧はツェナ電圧を分圧してます。分圧比を約半分とすると(VRA型であるし、R14があるので本当は半分ではない)、電源電圧が1V変化すると、ツェナ電圧は0.288V変化し、バリキャップ電圧はその半分の0.144V変化することになります。一方、前述したように、周波数つまみを端から端まで動かした時のバリャップ電圧の周波数感度は20[kHz/V]でしたから、20✕0.144[kHz]=2.88[kHz]となります。しかし、実測では局発周波数と電源電圧との関係は、419[Hz/V]であり、異なります。これの意味することは、電源電圧が変動した時の影響が、電源電圧変動→ツェナ電圧変動→バリキャップ電圧変動→局発周波数変動という連鎖以外の要因が入っているか、測定誤差か考え間違いがあるということです。

そのうち追試したいと思います。

 

3−2 温度依存性

局発周波数(受信周波数の1/2)の温度依存性(温度特性)を測定しました。

            図6 温度依存性

低温から温度を上昇させていくと局発の周波数は下がっていきますが、37度を境に、周波数は逆に上昇していきます(面白い!)。すなわち、37度付近の温特は優れています。30度以下の領域での温度特性(赤線で直線近似)は、
-
29[kHz/deg] → 受信周波数に換算すると −58[kHz/deg]
であります。

このデータで37度付近でなぜ温特が良くなっているのかは不明ですが、もしこのポイント25度付近に持ってくることが出来たら、温特の優れたリグとなります。

 

ちなみに、私以外の測定結果と比較すると、以下のようになります。

三村さん : −70[kHz/deg

小倉さん : −12/40=−0.3[kHz/deg]?

安島   : −58[kHz/deg

 

 

3−3 周波数可変範囲

 PJ-80の周波数調整つまみは中点クリックがあり、右に回すと受信周波数が増加します。だいたい中点周波数に対して約±2%の可変範囲があります。前述の図6の温度特性は中点周波数に対してですが、それに周波数可変範囲を重ねて図示します(図7)。あわせて分かりやすいように局発周波数のみならず受信周波数軸もつけてみます。

                 図7 周波数可変範囲(夏用設定)

 

 気温が40度の時の受信周波数範囲は、最大が約3.6MHz、最小が約3.46MHz、中点で約3.53MHzであることがわかります。一般のビーコン周波数(3.57MHz)、競技周波数(3.52MHz)をカバーしています。

 この周波数設定は夏の暑い盛りに行いました。中点で3.55MHzとなるように設定した記憶があります。このグラフから逆に読み取ると27度位であったとわかります。

 2006全日本大会(10月14日)3.5MHzエキシビションで私は受信開始ポイントで愕然としました。ビーコンしか聞こえないのです。一生懸命受信機を暖めましたが、NGでした。ひたすらゴール目指していくのみでした。その結果、タイムは50分で無探失格でした。

 駐車場へ行き、ドライバを出して調整しました。なんと駐車場では5つ全部受信できました。温度計を見ると19度でした。

 図7を再度みてみると、19度では競技周波数がOUT of RANGEであったことがわかります。残念でした。

 図7では低い温度の領域を推定して表示しています。12度以下になると、競技周波数どころか、ビーコンすら聞こえなくなってしまう可能性が大です。

 

 

 全日本大会の駐車場でのセッティング結果を図7のデータをシフトした形で図8に表現しました。これを冬用の調整と呼ぶことにします。8度〜20度で使用できます。

             図8  周波数可変範囲(冬用設定)

 このように、周波数可変範囲自体は広いのですが、温度依存性も高く、競技時の気温を考えたセッティングをしておかないと、温度範囲外になってしまう可能性があるようです。ただ、サンプルは1台なので、個体差もあり、PJ-80全てがそうであるということを言っているわけではありません。

 

以上

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